記事作成日:2024年9月26日
医療現場におけるAIの活用について。現状と今後の期待
2024年7月、両備システムズと岡山大学病院は、AIを活用して胆道がんの診断を支援するシステムを開発したとの報道がありました。
このシステムは内視鏡で撮影した画像をもとに、AIが疑似的な色素散布画像を生成し、それにより、粘膜の凹凸や病変範囲が分かりやすくなったそうです。
従来のCTやMRIでは診断が難しかった胆道がんの病変を、より正確に診断しやすくし、治療方針の決定に役立ちます。
今後はリアルタイムでの色素画像生成や、AIによる良性・悪性判断機能も研究が進められているそうです。
このように、現在は医療現場において、AIの活用が注目されています。
今回はそんな医療AIについて解説します。
医療AIとは?今できることとは?
「医療AI」とは、人工知能(AI)を活用して医療の質を向上させる取り組みのことを指します。
これには、ゲノム医療、診断(例えば問診や画像診断)、治療(例えば手術支援や治療計画の立案)、医薬品開発、介護など、多岐にわたる領域が含まれます。
特に進展が著しいのは、先述でも紹介したAIによる画像診断支援です。
医療技術の進歩により、読影が必要な医療画像の数が増加しており、それに伴って診断を担当する医師の仕事も増加しています。
一方で、医師の数は増えていないため、作業の効率化が重要な課題となっています。
このような状況に対応するため、診断の質を高めつつ医師の負担を軽減する技術として、AIによる画像診断支援が導入されています。
以下で、医療AIの現状について、今できることを紹介します。
画像診断
画像診断は、医療分野におけるAI活用の中でも最も早く取り入れられた技術であり、現在でも多くの医療現場で広く使用されています。
AIを活用した画像診断では、レントゲンやMRIといった医療画像から異常を検出する能力があり、これによって病気の早期発見や見逃しの防止が可能になります。
さらに、AIは画像診断の初期処理を行うことで医師の作業負担を軽減し、診断の効率を向上させる効果もあります。
こうしたメリットにより、AIによる画像診断は医療現場で非常に重要な役割を果たしているのです。
カルテの解析
カルテの解析において、AI技術が重要な役割を果たしています。自然言語処理技術(NLP)とは、コンピューターが日常的な言葉や文章を理解し解析する技術です。
この技術を用いることで、カルテや患者の問診結果などのテキストデータをAIが解析し、疾患の特定や診断のサポートを行っています。
現在、AIはカルテに記載された情報や問診結果を解析し、病気の兆候やパターンを特定する能力を持っています。
これにより、医師は診断の際に有用な情報を迅速に得られ、診療の精度が向上します。
また、医師の負担軽減にもつながり、より効率的な医療提供が可能となっています。
診療器具への活用
AIの技術は、医療器具にも広く活用されています。
特に注目されているのは、注射や採血ロボット、スマートウォッチ、スマートスピーカーなどへのAI搭載です。
これらの医療器具にAIを組み込むことで、患者の異常をリアルタイムで検知したり、医師の施術をサポートしたりすることができます。
これにより、患者への負担が軽減され、医療の質が向上しています。
AIの導入によって、診療がより効率的で正確になり、全体的な医療体験が改善されるのです。
ゲノム解析による疾病診断
ゲノム解析は、遺伝子の情報を詳細に調べる技術です。
人間のゲノムには約30億塩基対の情報が含まれており、この情報が突然変異を起こすことで様々な病気が引き起こされることがあります。
AIを活用することで、この膨大なデータを効率的に解析できるようになります。
AIは、大量の遺伝子データを迅速に処理し、病気のリスクや状態を素早く把握する能力があります。
このため、AIによるゲノム解析は、疾病の診断や治療方針の決定をより正確で迅速に行う助けとなり、個別化医療の進展にも貢献しています。
入院患者の異常事態の察知
入院患者には様々な異常事態が発生する可能性があります。
例えば、高齢の患者が転倒するリスクや、急な症状の変化が考えられます。
また、患者がナースコールをすることができない状況もあります。
こうした課題に対処するために、AIが重要な役割を果たしています。
患者の状態をリアルタイムで監視し、異常事態を迅速に察知することが可能です。
AIシステムは、患者の生体情報や行動パターンを常にモニタリングし、異常を自動的に検出します。
これにより、医療スタッフは患者が危険な状況に陥る前に対処することができ、緊急時の対応がより迅速かつ効果的になります。
結果として、患者の安全が向上し、医療機関の対応能力が大幅に改善されます。
レセプトの自動作成
レセプトの自動作成は、診療報酬明細書の作成と医療保険に関する業務を指します。
この業務は通常、定型的な作業とデータ管理を伴いますが、AIはこれらの分野において非常に効果的です。
AIがレセプト情報を自動で作成することで、手作業によるミスを減らし、業務の精度と効率が向上します。
さらに、AIは作成されたレセプトから得られるデータを学習に活用することができます。
これにより、AIは医療業務の傾向やパターンを把握し、将来的な診療報酬の予測や医療の質の向上に役立つ情報を提供することが可能になります。
このように、AIによるレセプトの自動作成は、業務の精度向上と効率化に寄与し、医療機関の運営をサポートしています。
ロボットによる手術支援
AIロボットを活用した手術支援は、現在進行中の重要な分野の一つです。
AIロボットは手術中にリアルタイムでデータを分析し、最適な術式を提案することができます。
この結果、出血量を抑えたり、手術の精度を高めたりすることが可能となり、患者にとって負担の少ない手術が実現しやすくなります。
また、外科医の数が減少している現状において、AIロボットは手術の補助だけでなく、手技の継承支援にも寄与しています。
経験豊富な外科医の技術や知識をAIが学習し、新たな外科医がより迅速に高度な手技を習得できるようサポートします。
このように、AIロボットによる手術支援は、医療の質を向上させ、患者の安全と医師の負担軽減に貢献しています。
新薬の開発
新薬の開発においては、医療費の高騰と薬価引き下げの圧力に対応するため、創薬プロセスの効率化とコスト削減が急務となっています。
この課題に対して、AI技術の導入が大きな役割を果たしています。
AIは膨大なデータを迅速に解析し、新薬の候補物質の発見や最適な分子の設計をサポートします。
これにより、従来の手法に比べて創薬のスピードが格段に向上し、試験や検証の過程での効率も改善されます。
さらに、AIは薬剤の効果や副作用を予測するためのモデルを構築し、リスクを事前に評価することで、開発コストの削減にも寄与します。
このように、AIの活用により新薬開発のプロセスが加速し、医療費の抑制と薬価引き下げの課題に対する効果的な解決策が提供されることが期待されています。
医療AIの現状における課題
医療AIの導入が進む中で、大量の正確な教師ありデータが必要ですが、データの質や不足が問題となっています。
診断結果や病変の分類が不十分な場合、手作業での修正が必要で、手間がかかるうえ、症例が少ない疾患ではAIの学習が難しくなります。
また、AIの判断がブラックボックス化し、その判断理由を説明しにくいため、インフォームド・コンセントにおいても問題が発生する可能性があります。
さらに、初診段階で疾患が特定できない場合にはAIの活用に限界があり、AIによる全体的な診断の精度向上には多くの技術的課題が残っています。
医療AIによる今後の展望について
今後、AI技術の進化により、より正確なデータ分析と診断支援が期待されています。
AIは膨大なデータからパターンを抽出し、病気の早期発見や個別化医療に役立つことで診断の精度向上に寄与するでしょう。
しかし、AIの診断はすべての患者に適応できるわけではなく、医師との役割分担が重要です。
AIは過去のデータに基づくため、未知の状況には対応が難しいことがあり、最終的な判断は医師が行うべきです。
また、AIの導入には信頼関係の構築が不可欠であり、AIの判断根拠を医師が理解し、患者に説明することが重要です。
今後、AIの技術が進化することで、医療現場での支援がさらに強化されると期待されていますが、限界を理解したうえでの適切な活用が求められます。
監修
あなぶきヘルスケア
事業部長 喜田 康生
平成17年にプランドゥ穴吹に入社。その後、地域の医療介護検索サイト「病院・介護ナビmilmil」を立ち上げ、サイト営業で多数の病院、クリニック、介護施設などを訪問。
現在はあなぶきヘルスケアにて、広告コンサルティングを通じ、ブランディングなど幅広い視点から医療介護業界をサポート。